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第31話 星をなくした夜空

last update publish date: 2026-08-18 18:05:05

 その夜、星がなくなった。

 夜空には雲ひとつなかった。

 月も出ていない。

 ただ、どこまでも深い黒が、村の上に広がっていた。

 村人たちは最初、それを珍しいことだとは思わなかった。

「今夜は星が見えないな」

「きっと明日になれば戻るさ」

 そう言って、いつものように家へ帰っていった。

 けれど、ひとりだけ知っている子どもがいた。

 この村で、星を守る役目を持つ子どもだった。

 名前は、誰にも呼ばれなかった。

 星を守る者には、名前が必要ないのだと、昔から言われていた。

 子どもは夜空を見上げた。

 胸の奥が、きゅっと痛んだ。

「……ごめんなさい」

 返事はなかった。

 いつもなら、空にはたくさんの星がある。

 眠れない夜には、ひとつずつ数えた。

 悲しい夜には、いちばん明るい星を探した。

 迷った夜には、北の空にある星が道を教えてくれた。

 けれど今夜は、そのどれもない。

 子どもは知っていた。

 星は消えたのではない。

 自分の心が曇ったから、星が光を失ったのだ。

 ずっと胸の奥にしまっていた悲しみ。

 誰にも言えなかった寂しさ。

 泣きたいのに、泣いてはいけないと思っていた涙
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     その夜、星がなくなった。 夜空には雲ひとつなかった。 月も出ていない。 ただ、どこまでも深い黒が、村の上に広がっていた。 村人たちは最初、それを珍しいことだとは思わなかった。「今夜は星が見えないな」「きっと明日になれば戻るさ」 そう言って、いつものように家へ帰っていった。 けれど、ひとりだけ知っている子どもがいた。 この村で、星を守る役目を持つ子どもだった。 名前は、誰にも呼ばれなかった。 星を守る者には、名前が必要ないのだと、昔から言われていた。 子どもは夜空を見上げた。 胸の奥が、きゅっと痛んだ。「……ごめんなさい」 返事はなかった。 いつもなら、空にはたくさんの星がある。 眠れない夜には、ひとつずつ数えた。 悲しい夜には、いちばん明るい星を探した。 迷った夜には、北の空にある星が道を教えてくれた。 けれど今夜は、そのどれもない。 子どもは知っていた。 星は消えたのではない。 自分の心が曇ったから、星が光を失ったのだ。 ずっと胸の奥にしまっていた悲しみ。 誰にも言えなかった寂しさ。 泣きたいのに、泣いてはいけないと思っていた涙。 それらが少しずつ積もって、心の中に夜を作ってしまった。 その夜が、空まで広がったのだ。「星を……戻さなくちゃ」 子どもは小さな袋を肩にかけた。 そして、村を出た。 星が落ちた場所を探すために。 最初に見つけたのは、森だった。 いつもなら月明かりと星明かりが木々の間から差し込み、獣たちの目が小さく光っている。 けれど今夜は、真っ暗だった。 鹿が道を見失っていた。 小さな鳥が木の枝から落ちそうになっていた。 夜行性の動物たちでさえ、不安そうに鳴いている。「星がないと、こんなに暗いんだ……」 子どもは手のひらを握った。 自分が悲しんでいるだけなら、それでよかった。 自分ひとりが眠れないだけなら、それでもよかった。 けれど、自分の心の曇りが、こんなにもたくさんのものを暗くしてしまった。 そう思うと、胸が苦しくなった。 森を抜けると、小さな町があった。 窓には灯りがともっている。 けれど、どの家の灯りも頼りなく揺れていた。 人々は眠れず、何度も窓の外を見ている。 子どもが泣いている家もあった。 老人がひとり、暗い空を見つめていた。「星がない夜

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